デジタル放送におけるWebサービスの活用事例
2002年5月10日
株式会社 東芝 e-ソリューション社 メディア・ソリューション事業部開発部
メディア・ソリューション第一担当 野村 茂生
株式会社 東芝 e-ソリューション社 金融システム第二部
保険システム技術担当 森田 幸治
株式会社 東芝 e-ソリューション社 SI技術開発センター
SI技術担当 矢野 令
1. まえがき

2000年12月よりBSデジタル放送がスタートしました。2002年にはCS110度デジタル放送がスタートし、2003年には地上波放送のデジタル化も計画されています。多チャンネル化、高画質化、双方向化。これらは従来型放送事業ビジネスモデルの見直しを迫り、企業にも視聴者にも多くのメリットを産み出す力を秘めています。その対象はテレビのみならず、インターネットや携帯電話の世界にまで広がります。デジタルサービスはコンテンツとアプリケーションの組合せで提供されるものであり、デジタル放送がその先端を走ります。

東芝ではBSデジタル放送をはじめとし、パソコンや携帯電話など複数メディアの双方向サービスを、クライアント企業に提供する「プライムステーションTM」を構築しました。

双方向サービスは、デジタル・データ放送の番組コンテンツと、コンテンツからの応答データを処理するサーバサイドのアプリケーションの組合せで提供されます。今回これらのサービスを実現するための基本機能や応用機能として、XML(Extensible Markup Language)/SOAP(Simple Object Access Protocol)ゲートウェイ、双方向コンテンツ自動生成、ワンソース・マルチユースといった基盤技術を確立しました。

2. データ放送/双方向機能の概要

BSデジタル放送は、高精細、多チャンネル、データ放送/双方向機能という3つの特長があります。データ放送と双方向機能により、番組中にリモコンを使ってクイズに答えたり、商品を購入したし、必要な情報を呼び出すことなどが可能となりました。

当社は双方向機能をもつデジタル・データ放送をメインに、パソコンや携帯電話等複数メディアへのサービスをASP(Application Service Provider)としてクライアント企業に提供する、放送型EC/ASPソリューション「プライムステーションTM」を構築しました。

データ放送は、映像や音声に加えて文字や図形などの各種情報を配信するサービスです。データ放送のコンテンツは、XHTML(Extensible HTML)をベースに放送サービスに必要な機能を拡張したBML(Broadcast Markup Language)という言語で作成します。

また、双方向機能については、視聴者がテレビのリモコン操作で、電話回線を通じBSデジタル放送応答サーバに情報を送信し、応答処理を行います。なお、送受信のためにBML内でECMAScript注1というスクリプト言語で記述された関数を使って実行します。

注1コンテンツの制御のための,手続き記述言語

3. 「プライムステーションTM」のサービス

「プライムステーションTM」は、テレビから送信されるデータを、BSデジタル放送サーバシステム経由で受けとり、各種サービスを実行します。さらに、パソコンや携帯電話と連動したクロスメディアのサービスも行います。提供するサービスは以下の通りです。

1.基本サービス
資料請求、アンケート、ポイント管理、決済・物流連携、XML/SOAPゲートウェイ、メディアミクス、ネットワークエージェント など
2.応用サービス
ショッピング(通販)、バンキング、双方向CMサービス など
3.コンテンツ制作支援サービス
双方向コンテンツ自動生成、ワンソース・マルチユース など

システム概要を図1に示します。ここでは特にサーバシステムをプライムステーションTMコアと定義します。

fig1

4. 「プライムステーションTM」の基盤技術

「プライムステーションTM」のサービスを実現するために開発した代表的な基盤技術として以下の4つがあげられます。

  1. 基本サービスや応用サービスを提供するシステムアーキテクチャ
  2. クライアント企業や他のサーバと連携するための「XML/SOAPゲートウェイ機能」
  3. コンテンツとアプリケーションから構成される双方向サービスを自動生成する「双方向コンテンツ自動生成機能」
  4. HTML(HyperText Markup Language)等のマークアップ言語を、他の形式に変換(トランスコード)する「ワンソース・マルチユース機能」

次項にて「XML/SOAPゲートウェイ機能」について説明します。

5. XML/SOAPゲートウェイ

クライアント企業がテレビコマースをはじめるときには、自社のシステムと接続したいというニーズが高く、また、インターネット向けに提供しているサービスを生かしたいという企業も多くあります。このように、様々なサービスを提供する上で、インターネット上に存在する多数の既存の情報システムとの連携は不可欠です。

そこで、「プライムステーションTM」では、テレビやパソコンからの応答データをXML形式に変換するコンポーネントや、SOAPに対応したミドルウェアを実装し、応答データをインターネット上に分散した他サーバシステムに送信するためのWebサービスゲートウェイ機能を開発しました(図2)。

fig2

次に金融業界における具体的な適用モデルをご紹介します。

6. 保険会社におけるチャネル戦略

合併や提携など金融業界において激変の時代を迎えている昨今、保険会社においても非常に厳しい企業経営の状況下にあります。バブル期以降は一部の保険会社を除いて保有契約高も年々減少し、また金利の低迷による逆ざやも発生しており、保険会社間での生存競争も激化しています。

このような環境下において、保険会社では、既契約顧客の囲い込みおよび新規顧客の開拓に、特に注力しています。いかに顧客との接点を広げ、密度を高く、質の良いものにしていくかが重要な課題となっています。既契約顧客に対しては契約を繋ぎ止めるための満足度の高いサービスを提供する必要があり、また新規顧客開拓のためには見込客に魅力を持たせるアプローチを勢力的に行っていく必要があります。顧客へのチャネル戦略の如何が保険会社の収益増減へ直結します。

保険会社が顧客へアプローチするチャネルとして、これまでは営業職員や代理店といったリアルチャネルでの営業活動が中心となっていました。しかしながら人的な接触だけではサービスの限界があり、顧客としても多様化されたサービスを望むようになってきています。ここ数年では保険会社各社においても自社Webサイトを立ち上げ、その中で保険商品の紹介や保険料試算、資料請求などのサービスを積極的に行っています。一般のWebサイトだけでなく携帯電話によるサービスも拡大しています。

さらに今後、顧客接点の拡大やサービスの差別化を図っていくために、保険会社各社では双方向通信が可能であるデジタル放送の活用に注目しつつあります。

7. 保険購買におけるデジタル放送の活用

顧客の保険購買におけるデジタル放送の活用には、以下の利点があるものと考えられます。

1.視聴者数
日本人が1日にテレビを視聴する時間は平均3〜4時間程度と言われています。営業職員や代理店などのチャネルや新聞・雑誌等の広告媒体と比較して、顧客へのリーチはより高いものと考えられます。
2.プレゼンテーション機能
ブロードバンドネットワークの普及は加速していますが、一般的なWebサイトではテキストや静止画による表現が中心です。保険の商品やサービスの説明は複雑であり、高品質・大画面での動画や音声でのプレゼンテーション、またデータ放送を利用した情報提供など、デジタルTVでは顧客に対する訴求力はより強いものと考えられます。
3.お茶の間での利用
保険加入を検討する場合には、個人で検討するよりも家族全員(あるいは夫婦間)で話しあって決定することが多いものと思われます。一般的にお茶の間の中心にあるTVは、保険加入を検討する際に適したメディアであると考えられます。
4.操作性
デジタルTVではリモコンでの簡単な操作により情報の入力が可能です。保険加入を検討する世代は情報機器に深く慣れ親しんでいる若年層だけではなく、機械に不慣れな層にも手軽に利用していただけます。

8. デジタル放送を利用した保険募集モデル例

デジタル放送を活用した保険業務としては、以下のようなモデル例が考えられます。

1.生命保険募集・保険料試算

動画放送とデータ放送による番組で生命保険の募集を行います(図3)。動画では保険加入についてのノウハウ説明を行い、保険に対する関心を促します。また、データ放送によって画面にテキスト情報を表示させ、動画内容の補足説明を行います。

ここでTVからのリモコン操作により見積番号を入力します。この見積番号をキーとして双方向通信を行うことによりTV画面に保険料の試算結果を表示させます。視聴者は動画内容と試算結果を確認しながら、保険の検討を行います。ここで更に詳細な説明が欲しい場合には、資料請求を行ったり、営業員の訪問予約サービスや、コールセンターからのコールバックサービスへと連携することも可能です。

<図3 生命保険募集・保険料試算モデル>
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2.自動車保険料試算・申込

データ放送における業務画面提供型モデルで、チャンネルを合わせればいつでもサービスの利用が可能です(図4)。まずTVからのリモコン操作により保険料の試算に必要な自動車の情報や申込者の情報を入力していきます。そして双方向通信を行うことにより保険会社と接続し、自動車保険料の試算を行った結果をTV画面に表示させます。試算した結果について利用者が納得した場合には、ここから保険申込へと繋げていきます。

<図4 自動車保険料試算・申込モデル>
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9. システム構成

これらのようにデジタルTVと保険会社間の双方向通信を行うためのプラットフォームとして、前述の「プライムステーションTM」をベースにサービスを提供しています(図5)。

例えば保険料試算を行う場合は、デジタルTVのリモコン操作により試算に必要な情報を入力させて「プライムステーションTM」へデータを送信します。「プライムステーションTM」ではデジタルTVからの応答データを保険会社向けのXMLデータに変換し、Webサービスによって保険会社へデータを送信します。保険会社で受け取られたデータは、保険料試算システムと連動して保険料の計算を行い、その結果を「プライムステーションTM」を経由してデジタルTVへと返信します。

このような保険料試算のサービスだけではなく、同様の通信を行うことにより、資料請求や契約申込などといったサービスも実現しています。

また、「プライムステーションTM」ではマルチチャネルに対応したプラットフォームを提供しており、デジタルTVからの入力だけでなくパソコンや携帯電話などにも対応しています。同一の仕組みを用いて幅の広いサービスを顧客に提供することができます。

このように、これまで顧客との接点であった営業職員、代理店、TVCM、新聞、コールセンターといったチャネルだけでなくXML/SOAPを利用したデジタル放送プラットフォームを活用することにより、保険会社と顧客との接点が更に広がり、より充実した保険サービスの提供が可能となります。

fig5

10. おわりに

今後、地上波デジタル放送の開始や、次世代携帯電話、情報家電などが本格的に立ち上がり、ブロードバンド化の流れが加速し、複合メディアに対するサービスの需要が増えることは間違えないと思われます。当社は、今後あらゆるメディアのコンテンツの応答と配信のサービスを提供していくための、Webサービス技術基盤の確立を図っていく所存であります。