4.2 WebOS:究極のエンタープライズWebアプリケーション
PFUアクティブラボ株式会社 松山憲和(matsuyama.nori@pfu.fujitsu.com)
HTMLをベースにした貧弱なユーザーインタフェースしか提供できなかったWebアプリケーションであったが、FlashやAjaxなどリッチクライアント技術の普及に伴い、スタンドアローン・アプリケーションと同等の操作性を実現できるようになってきている。
このような状況の中、Webアプリケーションの範疇を超え、デスクトップ環境そのものをWebブラウザ上で実現するサービスとして、WebOSに注目が集まっている。
ここでは、現在のWebOSのサービスの代表例から、その特徴を抽出し、その具体像を把握、WebOSのメリット/デメリットをビジネスモデルと共に分析するとともに、WebOSの将来像を予測する。
4.2.1 WebOSの特徴
WebOSの特徴を把握するには、WebOSと呼ばれるサービスを実際に使って体感することが早道である。
現時点で、利用可能、もしくはサービス開始を予定しているWebOSには、下記のようなサービスが存在する。
各WebOSについての概略を
【参考資料:WebOSカタログ】に掲載しているが、詳細については実際にアクセスしてWebOSを使ってみることをお勧めする。
『WebOS』という用語から、“Web技術を使ったOperationSystem”と捉える向きもあるが、上記のWebOSと呼ばれているサービスは、従来のOperationSystemが提供する基本的な機能-つまり、プロセス管理やメモリ管理、あるいはハードウェア資源を直接制御するデバイス制御機能などは有していない。
このため、WebOSを『OS』と呼ぶべきか議論が分かれるところであり、OSとしての分類ではなく、WebOSという独自のソフトウェア領域として、その特徴を捉える必要がある。
ここではWebOS独自の機能的特徴を3つの視点から整理する。
- デスクトップ操作性
- 利用可能アプリケーション
- アプリケーション管理/開発方法
4.2.1.1 デスクトップ操作性
WebOS最大の特徴は、PCデスクトップと同等の操作性を持ったユーザーインタフェースにある。分類すると、
- WindowsやMacOSなど既存のデスクトップ環境のルック&フィールを継承しつつ、独自の操作性/メタファを追加しているWebOS
例:StartForce、YouOS、Desktoptwoなど
- 既存のデスクトップ環境のルック&フィールを利用者が切り替えて利用できるWebOS
例:ORCA、Challengeなど
- 独自のルック&フィールと操作性を提供しているWebOS
例:eyeOS、Glide、goowy、SSOEなど
それぞれに一長一短はある。
既存OSのデスクトップとルック&フィールを同じにすることにより、習得するまでの時間を大幅な短縮が期待できるが、既存OSの進化への追随できるか、更に知的財産の抵触という点で危惧される。
一方、独自のユーザーインタフェースを提供している場合、習得までに時間は要するという課題はあるものの、デスクトップアイコン、ウィンドウ、メニューなどの基本的GUIメタファは同じであり、操作性に独自の工夫を施すことで、利便性を向上させている。
4.2.1.2 利用可能アプリケーション
WebOS上で利用可能なアプリケーションには、WebOS毎に量や質に多少の差異はあるものの、概ね下記のような種類が用意されている。
- ファイルなどのリソース管理ツール
- ファイル管理(エクスプローラ風のGUI、ファイルアップローダ/ダウンローダを持つ)
- タスク管理(実行しているアプリケーション一覧/アプリケーション切り替え/アプリケーション終了)
- ウィンドウ管理(実行しているアプリケーションの一覧/切り替え)
など
- コミュニケーションツール
- メーラー
- チャット
- メッセンジャー
- カレンダー
- アドレス帳
など
- オフィスツール
- WORDライクなエディタ
- 表計算ソフト
- プレゼンテーションソフト
- 画像ビューアなど
など
- 情報取得ツール
など
- Gadget類
- 時計
- 電卓
- 天気予報
- Googleなどの検索エンジン
など
- ゲーム
など
WebブラウザやコマンドコンソールなどWebOSならではのアプリケーションを持ったWebOSもあるが、ほとんどのアプリケーションが、既に、Web上で利用可能なサービスやアプリケーションである。
また、GUI的にスタンドアローン・アプリケーションと同等の操作性は実現できても、基本的にWebブラウザ上で動作しているための機能的限界もある。
つまり、ActiveXやプラグインを導入しない限り、ローカル資源への自由なアクセスなどのWebブラウザのセキュリティ制限やセッション管理などHTTP上のネットワーク制限の範疇を超えたアプリケーションの実現は困難である。
4.2.1.3 アプリケーション管理/開発方法
WebOS上で利用できるアプリケーションを管理、あるいは利用者自身が開発/公開する方法について整理すると、次のような機能的段階に分類できる。
特にWebOS上のアプリケーションを利用者自身が開発可能かどうかという点は、WebOSの拡張性、および利用者の利便性を大きく左右している。
特に、YouOSのように、WebOS上に開発環境を提供し、アプリケーションの開発~公開について自由度が高い場合、数多くのアプリケーションが開発/公開される可能性が高い。
(YouOSは、700個程度のアプリケーションが利用可能となっている)。
4.2.1.4 WebOSの特徴と定義
前述のWebOSの特徴を整理し、WebOSについて再定義する。WebOSとは、
- デスクトップと同等の操作性を持ったGUIメタファをWebブラウザ上に実現
- サーバ上のリソース管理ツールやオフィスツールなど様々なアプリケーションがWebOS上で利用可能
- 利用者自身がアプリケーションの追加や削除ができるだけではなく、開発や更に公開することが可能
という、3つの機能的要件をもつWeb上のサービスであると定義する。
なお、現時点でWebOSと呼ばれているサービスのうち、これらの機能要件を全て満たしているものは、その一部に過ぎない(StartForce、YouOSなど)が、
本稿では、以降、本機能要件を満たしたWebOSを議論の対象とする。
4.2.1.5 WebOSのサービス提供形態からみた特徴
WebOSサービスの提供形態には、以下の3つのパターンがある。
- 一般サービスとしての提供形態
一般利用者向けに、ユーザー登録を行えば、すぐに利用可能になる、Web上に公開されたサービス提供形態。
無料、もしくは低価格で利用可能であるが、半面、セキュリティや可用性などSLA(Service Level Agreement)に対する合意がないことが多く、企業用途には向いていない場合が多い。
- パッケージ提供形態
利用者/利用企業が、製品パッケージを購入し、自身でインストール/環境設定/運用管理を行う。
自社ネットワークに閉じた環境で構築することで高いセキュリティを確保することができるため、企業内利用も可能。
eyeOSやeXo Platformなどオープンソースの形態で提供されている製品も、パッケージ提供形態に分類される。
- ASP/SaaSモデルでの提供形態
一般サービスに比較し、使用できるディスクサイズが大きくなっているなどサービスレベルが高い。
有料サービス。SLA契約に依存するが、場合によっては、企業内にWebOSシステムを構築するよりも高いセキュリティ、および、可用性を確保できる場合もある。
ほとんどのWebOSが、上記3つのいずれか、あるいは混在する形態で、サービスを提供している。
また、WebOSサービスの提供形態は、WebOS提供ベンダー/サービスプロバイダのビジネスモデルと密接に関係がある。
WebOS自体の機能的特徴やターゲットユーザーの選定などと合わせて、どの形態を重視したサービス提供を行っていくのか、各WebOSのビジネス戦略が注目される。
4.2.1.6 Web2,0的側面からみたWebOSの特徴
WebOSの特徴をWeb2.0的視点で分析する。
- プラットフォームとしてのWeb
まさに、WebOSはプラットフォームそのもの。
WebAPIを使い、WebOSが持っている機能をシステムコール(あるいはWin32API)のように利用することができる。
- リッチなユーザー経験
Ajax、あるいはFlashなどのリッチクライアント技術を駆使し、PCデスクトップ上のユーザーインタフェースに近い操作性をWebブラウザ上で実現。
- 単一デバイス以外でのソフトウエア利用
PCだけではなく、JavaScriptが動作可能なWebブラウザ機能を持った端末(PDA、携帯電話、ゲーム機など)であればWebOSとその上で動作するアプリケーションを利用できる。
- データは次世代の『インテル・インサイド』→データが重要
WebOSでは、データは全てサーバ側で管理される。
データがサーバ側に集中管理されていることにより、クライアントとサーバでデータが分散していた従来の方式に比べ、アプリケーション間のデータ連携(集計、マージ、差分、関連付けなど)が容易になる。
つまり、あるアプリケーションが単独で保持していたデータが、他のアプリケーションのデータと連携することで、データとしての価値が上がり、ますますデータの重要性が増す。
- 「ソフトウエア・リリース・サイクル」の終焉
従来の分散型PCに比較し、WebOSはアプリケーションが集中管理されている。
このため、WebOS、およびWebOS上のアプリケーションのアップデートを容易に行うことが可能であり、利用者の要望を受けての改善サイクルを短くすることができる。
- 集合知/ユーザー参加型
WebOS上のアプリケーションを開発するためのライブラリ、ツール、開発環境を使って、利用者自身がWebOS上のアプリケーションを開発/公開し、WebOSそのものの機能を拡張することができる。
このように、WebOSは、Web2.0的アプリケーションの要素を備えていると考えることができる。
4.2.2 WebOSのメリット/デメリット
WebOSを利用する上でのメリット/デメリットをWebOS利用者、サービス提供者/システム管理者、およびWebアプリケーション提供者それぞれの立場から分析する。
4.2.2.1 WebOS利用者からみたメリット/デメリット
WebOSの利用者からみた、メリット、およびデメリットの主なものを、下記に列挙する。
メリット:
- Windows、Linux、Solaris、MacOS、PDAなどクライアント環境に依存せず、WebブラウザとWebOSへのネットワーク接続環境だけで各種アプリケーションが利用可能になる。
- アプリケーションの利用には、簡単な設定を行うだけでインストールの必要ない。またOSやアプリケーションのアップグレードもサーバ側で実施すればよいため、マシン管理にかかる手間が削減される。
- WebOS上のデータを全てサーバ側で管理しているため、データのバックアップ作業をサーバ側で集中的に実施でき、個々のクライアント側での作業の必要がない。
デメリット:
- 利用できるアプリケーションの質/量とも従来OS上のアプリケーションに比較し少ない。
- ローカルに接続されたデバイス(例えば、プリンタやスキャナなどの周辺機器)の利用ができない。
- WebOSへのネットワーク接続ができない環境では利用できない。
全ての作業をWebOS上で実施できるようになるためには、まだWebOS、およびWebOS上のアプリケーションは、力不足な点は否めない。
そのため、ローカルにインストールされたアプリケーションと補完、あるいは協調動作が求められる点など、煩わしさを感じる場面もある。
一方、メールや定型文書/帳票の作成など、既にWebアプリケーションで十分な実績がある分野については、WebOS上でもストレスなく利用することができる。
4.2.2.2 サービス提供者/システム管理者からみたメリット/デメリット
WebOSサービス提供者、あるいは企業の情報システム部門などシステム管理者からみた、メリット、およびデメリットの主なものを、下記に列挙する。
メリット:
- アプリケーションのインストールやアップグレードに必要な費用を抑えることができる。
- 情報管理を強固にできる。
- 利用者が利用するアプリケーションを制限することができる。
- アプリケーションの利用状況を的確に把握することができる。
- 分散して運用していたWebシステムをWebOS上に一元管理できる。
- ハードウェア費用をサーバ側に集中配分できる。
- 仮想化技術と比較し、サーバ負荷を抑制することができる。
デメリット:
- スタンドアローンなアプリケーションからの移行/教育コストが必要になる。
- サーバ、およびネットワーク管理工数が増加する。
システム管理者からみた場合、サーバ側のシステム管理コストが増えるが、システム全体という視点で見た場合、大量クライアントのマシン管理コストを大幅に削減できることが、大きなメリットと言える。
また、サーバ側でアプリケーションとデータを集中管理することで、情報統制やセキュリティ管理、および情報トレーサビリティの向上が期待できる。
更に、アプリケーション利用状況をベースにしたサービス向上など、攻めの情報システム構築が可能になる。
4.2.2.3 Webアプリケーション開発者からみたメリット/デメリット
アプリケーション開発者から見たメリット、およびデメリットの主なものを、下記に列挙する。
メリット:
- Web上の様々なサービスをWebOS上で利用することができる。
- Ajaxなど操作性に優れたWebアプリケーション開発が容易になる。
デメリット:
- アプリケーション開発方法、および配置/公開方法が、公開されていない場合にはアプリケーションの開発はできない。
- WebOSのユーザーインタフェースが気に入っても、WebOS自体の制限(ブラウザ制限、実装技術)にアプリケーション実装が依存する。
アプリケーション開発者から見た場合、WebOSによって提供される基本機能・フレームワークを活用できることは、開発スピードや生産性という点で、大きなメリットがある。Webブラウザ間の非互換機能の対応など面倒な処理は、ウィンドウ.やメニューなどの作成などGUI部品の利用、あるいは、外部のWebサービス/Webアプリケーションの呼び出しなど、WebOSから提供される機能を使用する効果は大きい。一方で、WebOS自体が、高い操作性と見栄えを提供しているため、同等の操作性や見栄えをアプリケーションに期待されることになり、従来のWebアプリケーション以上にユーザーインタフェースについてのデザインセンスが要求される。
4.2.3 WebOSのビジネスモデル
インターネット上に公開されているWebOSは、そのほとんどが、ユーザー登録だけで無料で利用することができる。
Craythurのように寄付によって運営費用を賄っているサービスを除き、現時点で、WebOS単体で、ビジネス的に成功しているサービスや製品が存在しているかどうか、詳細は不明である。
各社、今後のビジネス戦略を練っている段階と推測される。ここでは、各社のビジネスモデルを参考に、WebOSのビジネスモデルについて分析を行う。
- パッケージロイヤリティ
WebOSをソフトウェア製品として、パッケージ販売するビジネスモデル(例:eXo Platform、Desktoptwo、Fenestela)
- 有償サポート
フリー、もしくはオープンソース系のWebOSを企業内導入する際のインストール、運用/管理方法、技術的サポートを有償でサービス。(例:eXo Platform)
- システムインテグレーション、カスタマイズ
自社WebOS製品、あるいはオープンソース系のWebOSを顧客企業向けにカスタマイズを有償開発。
アカウント情報の既存のユーザー管理システムとの連携、外観の変更、WebOS上のアプリケーションの個別開発などがある。
- ASP/SaaSモデル
企業内でWebOSを運用するのではなく、インターネット上で公開/利用可能なWebOSを個別企業向けに有料で提供する。
利用可能なディスク容量拡大やネットワーク帯域の優先利用などで無料版とサービスレベルの差別化される。
また、ユーザー管理、企業内システムとの連携、個別WebOSアプリケーションなどを有償開発する。
- ポータル/ISP/回線サービスの付加価値提供
ポータルサイトやISP(Internet Service Provider)、あるいはインターネット回線業者が、会員向け自社サービスの付加価値を向上し、会員数拡大を目的とする。
WebOS専用端末を無料で配布することで会員拡大が期待される。
- インターネット対応機器販売メーカーによるサービス
インターネット接続可能機器のメーカー/販社が、WebOSを使って利用者向けサービスを提供する。機器の売り上げ拡大が収益源。利用機器として、PCやPDAのようなコンピュータだけではなく、携帯電話、テレビ、カーナビゲーション、KIOSK端末、ゲーム機などがある。機器本体が持つ機能を補完/拡張する機能の提供や利用者とのリレーションシップを緊密にするためのサービス(問い合わせやお知らせなど)のWebOSアプリケーションが考えられる。
例 テレビ:番組検索アプリ、番組視聴アプリ、ドラマや映画のDVD購入アプリ
カーナビゲーション:地域情報検索アプリ、カーナビ間チャット
- PCプレインストール
ネットワーク接続機能とWebブラウジング機能のみがインストールされているPCの販売。
インターネット上のWebOSとWebOS上のアプリケーションのみ利用可能(PCには、OSはインストールされていない。)
また、ディスクレス、あるいは数GByteの半導体ディスクのみ。PC本体の小型軽量化、信頼性向上、低価格での提供が可能。
- WebOSアプリケーション販売
WebOS上で動作するアプリケーションの開発/販売。WebOS標準搭載されたWebOSアプリケーション以上の機能を持ったWebOSアプリケーション(例、高機能メーラーや高機能表計算ソフトなど)や、標準搭載されていないWebOSアプリケーション、あるいは、業務アプリケーションなどが考えられる。
- 広告アフィリエイト
WebOSの壁紙や、WebOSアプリケーション起動時のスプラッシュウィンドウなどに、Google AdSenseなどの広告を掲載し、広告主からの広告料を収益源とする。
4.2.4 WebOSの課題と今後への期待
現在、利用可能なWebOSは、従来のWebアプリケーションと比較すれば、操作性や機能面で一歩抜きん出ている感がある。
しかし、“OS”、あるいは、PCデスクトップ環境の代替として、“WebOS”を見た場合、まだ課題は多い。
ここでは、現在のWebOSが抱えている課題について、WebOS自体、およびWebOS上のアプリケーションに分けて整理する。
4.2.4.1 WebOS自体に関する課題
現在のWebOS自体には、下記の課題がある。
- 安定性に関する課題
長時間運用に耐える安定性がない。
WebOSを数時間連続して利用した場合に、マウス操作に反応しない、あるいはウィンドウが開かないなど、WebOSがフリーズしてしまうという現象が、多くのWebOSで発生した(安定動作するWebOSもあったが、数は少ない)。
Webブラウザを動作環境とし、かなり大規模なJavaScript、あるいはFlashのアプリケーションを実行させていることが、安定性に欠ける原因であると想像される。
直接の原因が、Webブラウザにあるのか、WebOS自体にあるのかは、切り分けは難しいが、従来のWebアプリケーションであれば、ある程度の安定性でも十分運用に耐えるが、WebOSの場合(特に企業内で業務に利用する場合)、24H365日の使用に対して、確実に動作する安定性を担保できる品質が要求される。今後の改善が期待される。
- 操作性に関する課題
WebOSのユーザーインタフェースは、Windowsなどの既存OSのユーザーインタフェースを踏襲したものが多い。
しかし、Webブラウザ上で動作させていることもあり、例えば、ショートカットキーや、右クリックメニューなど、従来のOSの操作性との差異が多い点は否めない。
従来OSとの操作感の完全互換することで、導入教育コストの削減も期待されるため、ガイドラインレベルのような基本部分の差異を無くしていく必要がある。
- 実行性能に関する課題
WebOSの問題というよりもWebブラウザのJavaScript実行性能の問題でもあるが、従来OSの実行性能に比較し、ワンテンポ反応が遅いなど、快適に操作できる実行性能とは言えない。
ハードスペックの向上、あるいは、WebブラウザへのJIT型JavaScriptエンジンの搭載などで、今後の改善が期待される。
- 実行環境に関する課題
WebOSはネットワーク接続環境がない場合に、動作することがない。
ブロードバンド・ネットワーク環境が広がりや無線LAN環境の整備に伴い、ネットワーク接続環境の整備が進んでいるため、実行環境に対するハードルは低くなっている。
しかし、モバイルにおける移動中やネットワークが切れている状態などで、オフライン状態でもWebOSを動作させることが今後必要になると考えられる。
実現方法として、ローカルProxyのような環境を用意し、WebOSの状態をローカル環境に保存(FlashPlayerのローカル記憶域やクッキーを利用)し、ネットワーク再接続時に同期する方式が考えられる。
- WebOS間連携に関する課題
従来OSの場合、例えば、CIFS(SMB)のようにWindowsからLinuxのファイルシステムにアクセスすることができる。
WebOSの場合、異なるWebOS間でのデータ連携、あるいはアプリケーション間連携を行うことが難しい。
WebOSは、HTTP/HTML/JavaScript/XMLなど標準化されたWeb技術をベースに実装されているため、既存OS以上に連携は容易であることは推測されるが、APIを公開していないWebOSが殆どであり、またYouOSやStartForceなどAPIを公開してWebOSであっても、多い現時点ではAPIが標準化されていない。
このため、同じような機能であってもWebOS毎に異なるAPIでの実装が必要になる。
現在、WebOSベンダーやストレージサービス提供会社が集まったWebOSapi.org(http://webosapi.org/)という団体で、WebOSのAPIの標準化を進めようとしている。
4.2.4.2 WebOS上のアプリケーションに関する課題
現在のWebOS上のアプリケーションには、下記の課題がある。
- 量や種類に関する課題
WebOS上にアプリケーションは、従来OSのアプリケーションに比較し、その量的に圧倒的に少ないだけではなく、その種類も少なく、mailやRSSリーダーなど従来のWebアプリケーションの仕立て直しがその殆どではある。
当然、WebOSとは言え、結局はWebアプリケーションの一つであるため、その技術的な壁を超えることが難しいが、今後は、AjaxやFlashの操作性を武器にOfficeツールやビジネス系で使用される業務システムが増えてくることが予想される。
また、WebOSそのものが、従来OSのような、何でもできるOSではなく、ある業務や業種、更にはある企業に特化したOSを志向する可能性も考えられる。
- WebOSアプリケーション互換性/流通性に関する課題
現在のWebOSアプリケーションは、ある特定のWebOS上でしか動作しない。
つまり、あるWebOS上で動作しているアプリケーションを別のWebOS上で動作させようとしても、利用しているWebOS固有機能やAPI部分の移植、あるいはWebOSにおけるアプリケーション管理機構に適応させる必要があるなど、簡単に移植することができない。
WebOSのAPIの提供の標準化と合わせて、アプリケーション管理機構が標準化されることで、WebOSアプリケーションの互換性/流通性を高めることができる。
これは、WebOS利用者にとってメリットが大きいだけではなく、WebOSアプリケーション開発者にとっても、ビジネスチャンスが拡大することに繋がり、WebOS普及のためには最重要課題である。
- アプリケーション開発環境に関する課題
WebOSアプリケーションは、その本質はWebアプリケーション、そのものである。
しかし、WebOSアプリケーションが、WebOS上で動作しているため、WebOSアプリケーションの開発には、WebOSが提供しているAPIの利用や、WebOS内がどのようにアプリケーションを管理(ロードや実行)しているのかなど、従来のWebアプリケーションとは異なる技術スキルが必要になる。
逆に、これらのWebOS内での振る舞いを正しく理解しておけば、簡単な(しかし、リッチなユーザーインタフェースを持った)WebOSアプリケーションであれば、簡単に開発することができる。
一方で、既存のWebアプリケーションの開発環境をWebOSアプリケーションに適用すると、どうしてもWebOS部分までを開発環境に取り込んでしまう必要があるため、コーディングやデバッグを手軽に実施することができなくなってしまう。
WebOSアプリケーションに特化したアプリケーション開発環境が存在することで、コーディングやデバッグを必要最低限の作業に絞り込むことが可能になり、生産性向上につながる。
例えば、YouOSが提供する開発環境は、YouOSから呼び出される最低限の処理を記述するだけで、WebOSアプリケーションが開発できるようになっている。
また、作成したWebOSアプリケーションのコンパイルや、YouOS上への配置や実行、更に他利用者への公開までをサポートしている。
まだまだ、従来のWebアプリケーション開発環境に比較すると、WYSIWYGなヴィジュアルエディタやプログラム・デバッグ環境といった点で、生産性には劣っている点は否めないが、開発環境そのものがWeb上で実行できること、またコーディング後簡単に実環境で即実行できる点など優れた点も多く、今後の更なる進化が期待される。
- キラーアプリケーションに関する課題
現時点では、WebOS上、あるいはWebOSアプリケーションでできる作業の殆どは、従来のOS、もしくは、Webブラウザだけでも、十分、もしくはそれ以上に効率良く作業できるため、あえてWebOS上での作業に移行するための大きなモチベーションやメリットが少ない。
つまり、WebOSには、WebOSらしさを前面にアピールする、キラーアプリケーションがまだ存在していないということである。
WebOSアプリケーションは、Webアプリケーションの一種である。
つまり、WebOS上で実現可能なことは、従来手法のWebアプリケーションでも実現できるということである。
では、WebOSとして独自性を持ったキラーアプリケーションとは何か?それは、
- WebOS上の他のアプリケーションと連携が容易であり、利用者自身で連携の設定が可能。
- サーバ上のデータにアクセスできること(WebOSではデータは全てサーバ側に存在する)
という2つの特徴を生かしたアプリケーションであると言える。
例えば、メーラーとスケジューラが連携し、メーラーからスケジューラにタスクを登録したり、逆にスケジューラに会議を登録すると同時に、会議参加者に案内のメールを出したりするようなことが考えられる。
当然、Webアプリケーションでも、同様の機能を実現することは可能であり、実際、Zimbraでは、同様の機能が提供されているが、WebOSの場合、利用者自身でこのような機能を実現することが可能になる。
一方、SOA(Service Oriented Architecture)は、ITシステムの再利用性を高め、ビジネス変化に追随できる柔軟性と拡張性を持たせることを目的に、企業内のビジネスプロセスのサービス化とこれらのサービスをBPELなど技術によって連携しようという技術/考え方であり、基本的にサーバ側でのサービス連携に主眼をおいている。
更に、サービス連携の柔軟性を高める、サービスを有効活用しようという流れに、クライアント側でサービス連携を行うクライアントサイドSOAやあるいはマッシュアップという考え方が、リッチクライアント技術を中心には存在する。
WebOSでは、サービス化されたITシステムあるいはビジネスロジックは、WebOS上に一つのコンポーネントとして位置付けることができる。
そして、このコンポーネント化されたサービスは、サーバ側とクライアント側のどちらかで連携を可能とする潜在能力を持っている。
このようなWebOSの特徴を最大限に発揮したキラーアプリケーションの登場も近いであろう。
4.2.5 WebOSの未来予想図
ここまでの調査/分析結果を踏まえ、WebOSが今後、どのように進化していくか、リサーチ・コンサルタント会社であるガートナー社のハイプサイクルを活用して、未来予想図を描いてみる。
- 黎明期
WebOSという新技術が登場。
アルファギークを中心に、デスクトップライクな操作性とその上で動作するWebOSアプリケーションが、従来のWebアプリケーションとは一線を画した機能を持っていることから次世代のWebアプリケーション、更にはWebOSという名前から来る、次世代OSという期待が高まる。
- 流行期
メディアやベンダーからの過剰宣伝により、WebOSが急速に知名度を上げる。
特に、Webアプリケーションであるにも関わらず、スタンドアローン並みの機能と操作性を持った表計算ソフトウェアなどのオフィスツールに注目が集まり、個人向け市場を中心にパーソナルページへの利用が進む。
また、企業ユーザーからは、ソフトウェア管理コスト削減に対する期待から、WebOSを企業内ポータルの代替やオフィスツールの代替として採用する事例も出てくる。
現在は、黎明期から流行期に差し掛かった時期といえる。
- 反動期
前述した課題から、WebOSが期待したパフォーマンスを発揮できないことが明らかになり、急速にWebOSに対する関心が冷める。
一方、淘汰されたWebOSベンダーは、課題解決に向けた地道な研究/開発を行う。
WebOS APIの標準化が進み、WebOSのカスタマイズやWebOSアプリケーションの開発環境が整備され、WebOSアプリケーションが充実してくる。
- 回復期
WebOSに対して、企業ユーザーを中心に再評価される時期。
流行期に期待されたソフトウェア管理コストの側面以上に、情報管理やセキュリティ管理の側面から、WebOSをセキュアなシンクライアント端末として採用する企業や定型業務を中心に特定業務/業種でWebOSを採用する企業が徐々に増えてくる。
特定企業専用のWebOSや特定業種/業務専用WebOSなど用途が限定されたWebOSも登場する。
また、クライアント側でWebOSアプリケーションをドラッグ&ドロップ操作で簡単に連携する技術が出てくる。
クライアントサイドSOAが認知され始める。
- 安定期
WebOSが業務システム構築時に採用される基盤技術の一つとして認知され、技術のコモディティ化が進む。
また、特定業務向けにWebOS専用端末(OSレス)が登場する。
この未来予想は、WebOSに対する期待を込めた、楽観的予測ではあることは否めないが、WebOSが抱える課題の早期解決次第では、決して夢物語ではないと考えている。
4.2.6 まとめ
WebOSは、Webアプリケーションの枠を超えた操作性を持った、次世代のWebアプリケーションとして、特にその操作性や見栄えに注目が集まっている。
確かに、操作性や見栄えが、WebOSの大きなアピールポイントであることは間違いない。
しかし、ここまで述べてきたように、WebOSの本質はサーバ側に管理可能となったユーザー資源、そして、そのユーザー資源を利用できるWebOSアプリケーションがWebOS上で組み合わされることで、更なる付加価値が創生できることにある。
つまり、WebOSは、Webアプリケーションとしては小さな変化ではあり、ITシステムの大きな変化の兆しと捕らえることができる。
是非、この機会にWebOSを実際に操作し、その兆しに触れて頂きたい。
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