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4.2 WebOS:究極のエンタープライズWebアプリケーション
PFUアクティブラボ株式会社 松山憲和(matsuyama.nori@pfu.fujitsu.com)

HTMLをベースにした貧弱なユーザーインタフェースしか提供できなかったWebアプリケーションであったが、FlashやAjaxなどリッチクライアント技術の普及に伴い、スタンドアローン・アプリケーションと同等の操作性を実現できるようになってきている。 このような状況の中、Webアプリケーションの範疇を超え、デスクトップ環境そのものをWebブラウザ上で実現するサービスとして、WebOSに注目が集まっている。 ここでは、現在のWebOSのサービスの代表例から、その特徴を抽出し、その具体像を把握、WebOSのメリット/デメリットをビジネスモデルと共に分析するとともに、WebOSの将来像を予測する。

4.2.1 WebOSの特徴
WebOSの特徴を把握するには、WebOSと呼ばれるサービスを実際に使って体感することが早道である。 現時点で、利用可能、もしくはサービス開始を予定しているWebOSには、下記のようなサービスが存在する。 各WebOSについての概略を【参考資料:WebOSカタログ】に掲載しているが、詳細については実際にアクセスしてWebOSを使ってみることをお勧めする。
『WebOS』という用語から、“Web技術を使ったOperationSystem”と捉える向きもあるが、上記のWebOSと呼ばれているサービスは、従来のOperationSystemが提供する基本的な機能-つまり、プロセス管理やメモリ管理、あるいはハードウェア資源を直接制御するデバイス制御機能などは有していない。 このため、WebOSを『OS』と呼ぶべきか議論が分かれるところであり、OSとしての分類ではなく、WebOSという独自のソフトウェア領域として、その特徴を捉える必要がある。
ここではWebOS独自の機能的特徴を3つの視点から整理する。
4.2.1.1 デスクトップ操作性
WebOS最大の特徴は、PCデスクトップと同等の操作性を持ったユーザーインタフェースにある。分類すると、
それぞれに一長一短はある。 既存OSのデスクトップとルック&フィールを同じにすることにより、習得するまでの時間を大幅な短縮が期待できるが、既存OSの進化への追随できるか、更に知的財産の抵触という点で危惧される。 一方、独自のユーザーインタフェースを提供している場合、習得までに時間は要するという課題はあるものの、デスクトップアイコン、ウィンドウ、メニューなどの基本的GUIメタファは同じであり、操作性に独自の工夫を施すことで、利便性を向上させている。
4.2.1.2 利用可能アプリケーション
WebOS上で利用可能なアプリケーションには、WebOS毎に量や質に多少の差異はあるものの、概ね下記のような種類が用意されている。
WebブラウザやコマンドコンソールなどWebOSならではのアプリケーションを持ったWebOSもあるが、ほとんどのアプリケーションが、既に、Web上で利用可能なサービスやアプリケーションである。 また、GUI的にスタンドアローン・アプリケーションと同等の操作性は実現できても、基本的にWebブラウザ上で動作しているための機能的限界もある。 つまり、ActiveXやプラグインを導入しない限り、ローカル資源への自由なアクセスなどのWebブラウザのセキュリティ制限やセッション管理などHTTP上のネットワーク制限の範疇を超えたアプリケーションの実現は困難である。
4.2.1.3 アプリケーション管理/開発方法
WebOS上で利用できるアプリケーションを管理、あるいは利用者自身が開発/公開する方法について整理すると、次のような機能的段階に分類できる。
特にWebOS上のアプリケーションを利用者自身が開発可能かどうかという点は、WebOSの拡張性、および利用者の利便性を大きく左右している。 特に、YouOSのように、WebOS上に開発環境を提供し、アプリケーションの開発~公開について自由度が高い場合、数多くのアプリケーションが開発/公開される可能性が高い。 (YouOSは、700個程度のアプリケーションが利用可能となっている)。
4.2.1.4 WebOSの特徴と定義
前述のWebOSの特徴を整理し、WebOSについて再定義する。WebOSとは、
という、3つの機能的要件をもつWeb上のサービスであると定義する。 なお、現時点でWebOSと呼ばれているサービスのうち、これらの機能要件を全て満たしているものは、その一部に過ぎない(StartForce、YouOSなど)が、 本稿では、以降、本機能要件を満たしたWebOSを議論の対象とする。
4.2.1.5 WebOSのサービス提供形態からみた特徴
WebOSサービスの提供形態には、以下の3つのパターンがある。
ほとんどのWebOSが、上記3つのいずれか、あるいは混在する形態で、サービスを提供している。 また、WebOSサービスの提供形態は、WebOS提供ベンダー/サービスプロバイダのビジネスモデルと密接に関係がある。 WebOS自体の機能的特徴やターゲットユーザーの選定などと合わせて、どの形態を重視したサービス提供を行っていくのか、各WebOSのビジネス戦略が注目される。
4.2.1.6 Web2,0的側面からみたWebOSの特徴
WebOSの特徴をWeb2.0的視点で分析する。
このように、WebOSは、Web2.0的アプリケーションの要素を備えていると考えることができる。

4.2.2 WebOSのメリット/デメリット
WebOSを利用する上でのメリット/デメリットをWebOS利用者、サービス提供者/システム管理者、およびWebアプリケーション提供者それぞれの立場から分析する。
4.2.2.1 WebOS利用者からみたメリット/デメリット
WebOSの利用者からみた、メリット、およびデメリットの主なものを、下記に列挙する。
メリット:
デメリット:
全ての作業をWebOS上で実施できるようになるためには、まだWebOS、およびWebOS上のアプリケーションは、力不足な点は否めない。 そのため、ローカルにインストールされたアプリケーションと補完、あるいは協調動作が求められる点など、煩わしさを感じる場面もある。 一方、メールや定型文書/帳票の作成など、既にWebアプリケーションで十分な実績がある分野については、WebOS上でもストレスなく利用することができる。
4.2.2.2 サービス提供者/システム管理者からみたメリット/デメリット
WebOSサービス提供者、あるいは企業の情報システム部門などシステム管理者からみた、メリット、およびデメリットの主なものを、下記に列挙する。
メリット:
デメリット:
システム管理者からみた場合、サーバ側のシステム管理コストが増えるが、システム全体という視点で見た場合、大量クライアントのマシン管理コストを大幅に削減できることが、大きなメリットと言える。 また、サーバ側でアプリケーションとデータを集中管理することで、情報統制やセキュリティ管理、および情報トレーサビリティの向上が期待できる。 更に、アプリケーション利用状況をベースにしたサービス向上など、攻めの情報システム構築が可能になる。
4.2.2.3 Webアプリケーション開発者からみたメリット/デメリット
アプリケーション開発者から見たメリット、およびデメリットの主なものを、下記に列挙する。
メリット:
デメリット:
アプリケーション開発者から見た場合、WebOSによって提供される基本機能・フレームワークを活用できることは、開発スピードや生産性という点で、大きなメリットがある。Webブラウザ間の非互換機能の対応など面倒な処理は、ウィンドウ.やメニューなどの作成などGUI部品の利用、あるいは、外部のWebサービス/Webアプリケーションの呼び出しなど、WebOSから提供される機能を使用する効果は大きい。一方で、WebOS自体が、高い操作性と見栄えを提供しているため、同等の操作性や見栄えをアプリケーションに期待されることになり、従来のWebアプリケーション以上にユーザーインタフェースについてのデザインセンスが要求される。

4.2.3 WebOSのビジネスモデル
インターネット上に公開されているWebOSは、そのほとんどが、ユーザー登録だけで無料で利用することができる。 Craythurのように寄付によって運営費用を賄っているサービスを除き、現時点で、WebOS単体で、ビジネス的に成功しているサービスや製品が存在しているかどうか、詳細は不明である。 各社、今後のビジネス戦略を練っている段階と推測される。ここでは、各社のビジネスモデルを参考に、WebOSのビジネスモデルについて分析を行う。

4.2.4 WebOSの課題と今後への期待
現在、利用可能なWebOSは、従来のWebアプリケーションと比較すれば、操作性や機能面で一歩抜きん出ている感がある。 しかし、“OS”、あるいは、PCデスクトップ環境の代替として、“WebOS”を見た場合、まだ課題は多い。 ここでは、現在のWebOSが抱えている課題について、WebOS自体、およびWebOS上のアプリケーションに分けて整理する。
4.2.4.1 WebOS自体に関する課題
現在のWebOS自体には、下記の課題がある。
4.2.4.2 WebOS上のアプリケーションに関する課題
現在のWebOS上のアプリケーションには、下記の課題がある。

4.2.5 WebOSの未来予想図
ここまでの調査/分析結果を踏まえ、WebOSが今後、どのように進化していくか、リサーチ・コンサルタント会社であるガートナー社のハイプサイクルを活用して、未来予想図を描いてみる。

4.2.6 まとめ
WebOSは、Webアプリケーションの枠を超えた操作性を持った、次世代のWebアプリケーションとして、特にその操作性や見栄えに注目が集まっている。 確かに、操作性や見栄えが、WebOSの大きなアピールポイントであることは間違いない。 しかし、ここまで述べてきたように、WebOSの本質はサーバ側に管理可能となったユーザー資源、そして、そのユーザー資源を利用できるWebOSアプリケーションがWebOS上で組み合わされることで、更なる付加価値が創生できることにある。 つまり、WebOSは、Webアプリケーションとしては小さな変化ではあり、ITシステムの大きな変化の兆しと捕らえることができる。 是非、この機会にWebOSを実際に操作し、その兆しに触れて頂きたい。

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